公演其ノ五「一足遅れの節分企画〜祓いきれない鬼退治〜

よしこ公演其の五「一足遅れの節分企画〜祓いきれない鬼退治〜」は1997年2月、中三AUNホールにて上演されました。
公演期間が節分ということで、鬼をテーマにしたよしこ初のオムニバス7作品。
よしこ外の人にも脚本を依頼しました。
(ひょうたんから豆 作/高橋縁、東京ユニコーン〜少女達による都市論の試み〜 作/徳田憲明、鬼門〜春来る鬼の来し方は〜 作/大泉千春)
演出上、大量の豆を使用した為、上演後の清掃が大変だったことが印象深い作品でした(笑)。

 


「一足遅れの節分企画」のチラシ

 


 *あらすじ*


「ほね」「かわ」「あめ」三部作 作/大沼由希

「ほね」

相手がいないのに誰かと話をする女。彼女は手の中に1つの卵を持ち、それをあたため続けている。
怯えながら、何かから逃げている女は、狂気の世界へと足を踏み入れていた。


 女 「ほら、鬼が来たよ」


彼女は自ら卵を壊した。手の中から真っ赤な血が流れ落ちた。


 

「かわ」

うのとさのという2人の子供が話をしている。2人の前には川が流れている。

 うの 「この川をどこまでも下って、鬼退治に行こう。」


そんな2人に「どちらか一人だけを可愛がってあげる」という声がどこからか聞こえる。

 うの 「僕のママだよ。」
 さの 「違うよ、僕のママだ。」


互いに自分が残ろうと相手に向かって針を突き刺す。


 

 

「あめ」

女の前に1人の少女が現れる。
少女は、いつまでも卵をあたため続けて、狂気の世界から離れられない母親を、救い出そうとしていた。


 少女 「鬼は内です。外へ逃げて下さい。でないと、あなたを切り裂く私は殺人鬼です。」


少女は傘を振り上げた。そんな少女をやさしく抱きしめる女。


 女 「鬼は私だよ。あなたをつかまえたんだから。・・ごめんね。」


崩れ落ちる少女。そして雨が降ってくる。


 女 「空から落ちてくるあんたのすべてを、あたしが全部受け止めるから。安心
    して降っておいで。」


そして女は空をあおいで、両腕を広げた。

 

 

「東京ユニコーン〜少女達による都市論の試み〜

作/徳田憲明

喫茶店でバイト中の女性達。
バイト仲間のよしこさんという女性の頭に、どうやら1本の角が生えてきたらしい。
ところが、当のよしこさんは全く気にする様子もなく、平然としている。
仕事の合間にちょっと居眠りをするよしこさん。
バイト仲間達は角が取れるようにと、眠る彼女の周りで何やらお払いの儀式めいた事を始めるが、一向に取れる気配はない。
客の対応に仲間達は出払い、1人取り残されたよしこさん。
眠りから覚めて大きく伸びをしたその時、ぽろっと角が取れる。
 

 よしこさん 「あ、取れた」

 かすかに微笑むよしこさん。
 

 

「授業」 作/大沼由希

ある教室の授業風景。そこにいるのは、どこかしら奇形の生徒達。
1人の生徒が赤鬼と青鬼の話を朗読している。


 生徒3 「人間になりたい赤鬼は角を折った。そして赤い体を利用し、羊水の海
      を渡って赤ちゃんになった。」


生徒は先生に質問した。


 生徒1 「どうして青鬼は海の向こうへ行けないんですか?」
 先生  「角を折っても、青い体はごまかせません。姿形の違うものを人間は良
      く思っていないのです。」
 生徒2 「では私達は海の向こうへ行けますか?」


辺りはゆっくりと暗くなって行き、やがてすべてが暗闇に呑込まれ、決して生徒達は海の向こうに行くことはなかった。



 

「ひょうたんから豆」 作/高橋 縁

女(女1)が部屋に帰ってくると、見知らぬ女(女2)がいた。まるで、自分の部屋のようにくつろぐ女2。
テーブルを挟んで向かいに座る女2はいつの間にか女1の手を握っていた。


 女2 「この手はもう離れない」


女1は女2の事を、いいかげんで、図々しく、嘘つきで本当に嫌な女だと思っていた。
2人はテーブルの上の瓶に豆を入れる。


 女1 「鬼は外」
 女2 「鬼は外」
 女1 「うそつき鬼がやって来るよ」
 女2 「うそつき鬼が出て行くよ」

 女2 「嫌いじゃないよ、嫌いじゃないよね」


女2は豆の入った瓶を女1に持たせ、立ち去ろうとした。


 女1 「嫌いじゃないよ、嫌いじゃない」


一人ぼっちの嘘つき鬼。彼女はいいかげんで、図々しく、嘘つきなもう一人の私なのか?

 
 

 

「鬼門〜春来る鬼の来し方は〜 作/大泉千春

舞台は九州。ある学校に鬼門である東北地方から1人の少女が転校してきた。
放課後教室に残る少女と1人の少年。2人は少女の故郷の話をする。
少女の故郷へ行ってみようと旅立つ少年に


 少女 「待って、これあげる。」


と花を一輪差し出す。

そして数十年後、少女は老人になり老人ホームで暮らしている。
そこへ1人の青年が花の配達にやってきた。


 少年 「人を探しているんです。花の好きな子だったから、花屋やってれば会えるかと思って。」


少年と少女の時間は同じに流れているわけではない。
少年が北へ行って10回春を迎えている間に、最後の晩餐を終えてしまっていた少女。
空には何も無くなって、雲も青空さえも無くなって、このままゆっくりと世界も終わろうとしている。


 少女 「何もわからなくなって、光が届かなくなって、最後の瞬きをした瞬間、何かがやって来るのが見える・・。」


鬼門の方角へゆっくりと振り向いた少女の視線が、少年とぶつかった。




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