公演其ノ九「ほんのり怪談〜怖いながらも楽しい妄想〜

よしこ公演其の九「ほんのり怪談〜怖いながらも楽しい妄想〜」は1999年7月、盛岡劇場タウンホールにて上演されました。
「怪談」と銘打って行った、3作品日替わりメニューの公演。
ただ怖いだけでなく、切なさや楽しさ、不思議な感覚を盛り込んでいて、よしこの多面性を引き出した作品でした。
 


「ほんのり怪談」のチラシ

*あらすじ*

「井戸」

昔、井戸のある家があった。その家には月子という一人娘がいた。
月子にある夜、秘密の友達が出来る。


 女1、2 「ずっと月子さんを待っていたの。」


そう語る彼女達2人は、実は月子とは母親の違う姉だった。


 女1 「月子さんのお母さんが、ここから出てはいけないって。」
 女2 「ここへ来て・・・一緒に遊びましょう」


幾日かたった夜中、井戸に水音が響いた。そして月子は姿を消した。

それから何年がたったのか、井戸の上には家が建ちその家も廃墟となっていた。
近所では評判のお化け屋敷である。
ある夜、絶対お化けを見たいめぐちゃんと、仕切り屋くぼちゃん、怖がりのまつみの3人組がやってきた。
気配を感じて帰りたがるまつみ。あの手この手を使ってお化けを見ようとがんばるめぐちゃん。
この下に眠っているお化けは、井戸の仕組みのように、沈むものがなければ浮かばれないのでは?と推理をするくぼちゃん。
そうこうしているうちに、あきらめて一同は帰ることに決める。
ところが、まつみはお守りを無くしたことに気付く。
2人の反対を押し切って、一人屋敷に戻ると月子がいた。

 月子 「ありがとう」


そう言って月子は、外で待っている2人の元へまつみの代わりに帰って行った。
そして屋敷の中から、あるはずのない井戸に落ちる水音が響いた。




  


「ねんねんひつじ眠れぬ羊」

 女1 「羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹・・・・」


眠れない女1、彼女を見守る女2、そこに集まる人々。
彼女達は皆死んでいる。誰かがここによび寄せている。
馬に乗って登場する熱血先生の授業や組体操で世界制服をたくらむ人々。
職務を忘れない婦人警官、新人の死体、体の一部がぼたぼた落ちる死体…。
話がコミカルに展開して行く中、皆は立ち上る一筋の煙に思いを馳せる。
再び羊を数え出す女1。


 女1 「羊が百匹、千匹、一万匹、いくら数えても眠れない。いくら待っても朝は来ない。」
 女2 「大丈夫だよ。眠れるし朝も来る。」


地縛霊である女1に、女2は優しく応える。


 女2 「ずっとここにいたんだね。一人で待ってたんだね。淋しかったでしょ。がんばったね。」


女2に頭をなでられながら眠りにつく女1。
そして朝が来て、煙が空へ登っていった。




 


「覚醒〜水際に春の花を添えて〜

少年は夢を見た。少女と散歩をする夢。
その夢の中では少女は一歩大人に見えた。


それはいつもと変わらぬ朝のはずだった。
目覚めた少年は母親がどこか違うような気がしていた。
目を離したすきに母親は突然倒れ、また何事も無かったかのように起き上がる。そしていつもの笑顔。


教室には、時計が無い。友人の時計は針が無い。
そして、友人もまた倒れては起き上がる。


友人 「あー良く死んだ」


やがて始まる授業も奇妙なものだった。
人形のように動かないクラスメート達の中で、少年は一人取り残される感覚に陥る。
皆とは違う自分がおかしいのか?それとも皆がおかしいのか?
やがて少年は夢の少女に出会う。


 少年 「きっと何かの約束があったはずなのに、何も覚えていないんだ…。」
 少女 「忘れる事はとても優しい力です。」


自分の中に何億の生と死、記憶と忘却があるのだ。
花の中で眠る少女。降り続ける花びらの中、


 少年 「さよなら、また次の春まで。」

 


 

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